「人生まだ6回裏」大手内定辞退、逮捕、難病から立ち上がる友が、元新聞デスクの私に教えてくれたこと

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働いていると生きる目的を忘れがち。会社の価値観に縛られ、考えも周りに染まっていく。

新聞社に35年勤めてきた私は、ふと、気が付くと人生を謳歌していないことに気付いた。出世していく同期を見ると、俺の方ができたのにと嫉妬の気持ちでいっぱいになる。しかし、それは他人の価値観でのこと。人生は思い通りにいかないからこそ愛おしい。

昨秋、数年ぶりに再会した親友Aと語り合い、そう思わせてくれた。

京都のキャンパスで出会った「不器用で熱い男」

私がAと出会ったのは40年前に通っていた京都の大学2年のとき。彼は一人でラグビーサークルのメンバーを集めようと、手描きのビラを校内に張り出した。クマが組み合っているような拙いイラストだが、面白そうだと思い連絡した。

Aは法学部政治学科に2浪で入学。柔軟な考えの持ち主で、誰とでも友達になれた。「なんとかなるやろ」が口癖。サークルに10数人が集まり、活動は盛り上がった。Aは身長170センチに満たないやせ型だったが、フォワードのポジションを希望した。私たちは大学の敷地の隅で走りながらボールを回し続け、やがて対外試合も組んだ。授業には出ずに練習や学園祭巡りに明け暮れ、夜は繁華街に繰り出した。下宿や友人宅では深夜まで政治や社会について語り合った。

内定辞退、渡米、そして挫折――己の理想を追い求めて

Aはサークルや遊びに熱中するあまり、1年留年して卒業。大手造船会社からいったん内定を得たが、「やりたいことをせずに、このままでいいのか」と悩んだ末、辞退した。世界を知りたいとアメリカ北東部の大学院に留学するため、愛知県で自動車工場の期間工として働き、貯めた900万円を元手に渡米した。

アメリカの大学院でもラグビー部に入り、熱中した。帰国後は、スポーツ振興を目的としたNPOを設立してスポーツで町おこしを真剣に考えた。愛媛県では自治体を回り、坊っちゃんスタジアムを拠点に野球大会を提案。関西を中心に活動したが、軌道に乗らず挫折した。

次に挑んだのは政治の世界だった。地元選出の野党第一党の代議士秘書として、選挙区を駆け巡り、支援を呼びかけた。30代半ばでAと東京で会った時、「日本は〇〇しなければ、あかんのや」と理想を熱く語っていたのを思い出す。一方の私は、会社の愚痴をこぼしていただけだった。

逮捕、難病、それでも信念は曲げない

そんな矢先、事務所の選挙違反容疑でAは逮捕された。仲間の責任まで背負い、有罪判決を受け入れて服役。しばらく社会から隔絶される苦しい時間を過ごした。出所後は元の議員事務所に戻り、事務所関係者と結婚した。

偏見を持たず、だれとでも等しく接する性格。代議士が驕った態度やスタッフに理不尽な行為をしたときには本人に厳しく進言することもあった。信念を曲げない姿勢は、大学時代から変わっていない。

Aは2年前、免疫系の難病を突然発症した。歩けなくなるほどの重症だったが、新薬が承認された直後で、それが効いた。投薬後は少しずつ回復している。昨年の衆院選では再び求められて選挙カーの上に立ち、人々に同じ候補者への支援を訴えた。

「お前は人生を振り返って、納得できるか」

昨秋に再会して語り合ったとき、彼は私に「お前は人生を振り返って、納得できるか」と聞いてきた。私は少し間をおいて「特に後悔はない」と答えた。その時、私は仕事や体調面で思い通りにいかない状態だった。悔しさはあったが、やってきたことに後悔はなかった。私も彼に聞き返そうと思ったがやめた。今も政治や日本のことを語る姿に、後悔の念は全く感じさせなかったからだ。

今、Aは幼い3人の子どもの父親。地元で観光ガイドや市会議員になろうとしている。「政治はおれのルーツ」との思いが強い。

「ほんまや、人生まだ6回裏」──仲間たちとの再会

Aと再会したとき、数十年ぶりに集まったサークル仲間数人との食事会も催された。同年代の友人が「人生まだ6回裏」と発言した。するとAは「ほんまや。人生まだ6回裏、人生まだ6回裏」と何度も繰り返した。このままでは終わらないという思いが伝わってきた。西洋人とのハーフのようなクリっとした瞳は昔と変わらない。

サークル仲間も60歳前後。仕事を変えたり、不本意な仕事をさせられたりと、挫折や悔しい思いをしながら必死に生きていた。彼らにも勇気づけられた。なにより学生時代の楽しい時間が蘇ってきた。

その後もAは、私が大病で入院したとき、すぐに心配して電話をくれた。優しいところは学生時代と変わらない。

結果よりも「挑戦したか」「納得できるか」

人生は成功するかより、『挑戦したか』『納得できるか』。

Aの半生は、そのことを強く私に教えてくれた。 結果はたまたまのこと。成功ばかりを追い求め、会社での立場や他人の評価に嫉嫉していた私にとって、あの汗まみれのサークルで出会った仲間たち、そして不器用なまでに真っ直ぐ生きるAの存在こそが、人生後半を照らす何よりの『たからもの』だ。

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シュレディンガー
報道記者
主要マスコミに勤務。記者、デスクとして東京、大阪、地方での取材経験あり。最近はサイエンスコミュニケーター目指して宇宙物理や量子力学を学んでいる。
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