『ふんどし姿で修羅場に突っ込め』が記者の仕事?──国府宮はだか祭で生還した私が、後輩の『胸骨骨折』とブラック慣習の終焉を語る
「(愛知県)稲沢に赴任したなら、はだか祭に出るのが記者の仕事だ」
支局長や歴代の先輩に言われました。
稲沢通信部に赴任した記者は、祭りに出て体験ルポを書くのが決まりでした。
20代半ばの私に出ないという選択肢はありません。
日本三大奇祭の一つとして全国に知られる愛知県稲沢市の「国府宮はだか祭」は、男たちが激しくひしめき合う。毎年多くの観光客でにぎわい、街全体が興奮の渦に包まれます。
見ている側には迫力があって興奮しますが、出る側は真剣そのもの。命の危険すらあります。相当な覚悟がいります。
しかし、それは「仕事」として正当化されるべきものでしょうか。
記者に限らず、社員は会社のイベントや地域のお祭りへの参加を慣習で求められることがあります。予期せぬ出来事やケガのリスクを考えると、貴重な時間を費やしてまで参加するべきか疑問です。
けがだったり、休み返上で私生活に支障があったりしたら勇気を出して断ることも大切でしょう。どこまでが境界線か、事例から考えます。
国府宮はだか祭での過酷な体験
私が20代半ばに稲沢通信部に赴任して参加させられた「国府宮はだか祭」は、とにかくぶつかり合いが激しい。
歴代の通信部記者は全員が、裸男(裸にふんどし姿)になり、裸男の密集に入ってその迫力を読者に伝えます。私は在任した3年間、毎年祭りに出ました。
祭りは、毎年2月前後に催される。全長500メートルある参道に数千人の裸男が詰め込まれます。時間になると、神男が沿道から参道の中に飛び込み、神社の儺追殿(なおいでん)まで進む神事。
裸男たちは神男に触れれば、自分や託された厄を落とすことができるとされる。
参道に集まった裸男が、主役の神男(しんおとこ)に触れようと激しくもみ合い、参道はまさに修羅場と化す。
偽の神男も別のところから入り、裸男たちを欺く
参道の両わきは板で仕切られ、外には出られない。
神男はスクラムを組んだ仲間8人ほどに守られている。偽の神男も別のところから参道に入り、裸男たちを欺く。裸男たちは勘違いして偽物に群がり、その間に本物は前へと進んでいく。
神男の本物が見つかって裸男たちに囲まれると、今度は参道わきの塀の上の桶を持った男たちが冷水を裸男めがけて勢いよくかける。
水を浴びた裸男たちは、冷たさでひるんだすきに神男は進んでいく。
まさに肉体と肉体が衝突する、欺瞞に満ちた『騙し合いのデスゲーム』である。
最後、儺追殿に神男に引き上げられると大きな歓声と拍手が沸き起こり、神事をやり遂げた高揚感が広がる。
後輩の重傷、そして慣習の終焉
もみ合う中で、はだか男たちは次々と転倒した。
何十人と踏みつけられていく。泥だらけになって「マグロ」と呼ばれる姿になり、気を失って市民病院に運ばれる。毎年、大けがをする人たちが後を絶たない。
気を失ったまま病院で過ごす人もいる。毎年、引き取り手が現れないため、祭り前には注意喚起の記事で、市民らに体に住所氏名を書くよう呼びかけ、家族はすぐに迎えに来るよう求めました。
骨折する人は毎年、多くいます。過去には亡くなった人もいました。
私は体験ルポを書くためにふんどし姿で参加しました。神男に近づくと足を踏まれ、知らない人の腕が顔に当たって痛い。押し合う人に挟まれて呼吸ができなくなる。間近に倒れた人が踏まれていくのを見ていると恐ろしくなりました。
私は3回出ましたがなんとか無事でした。
私の十数年後、後輩記者が胸の骨を折る大けがをしました。これを機に、慣習だった「記者体験ルポ」は廃止されました。犠牲者が出て初めて見直される。これは現代のブラック企業の構造と重なって見えます。
ケガや時間の浪費というリスク
命の危険だけでなく、『貴重なプライベートの搾取』というリスクもあります。北陸に赴任した際も、地域の伝統である『三国まつり』の山車引きに住民の義務として駆り出されました。
私が新聞社勤務で、取材に協力してもらうため仕方ない面もありました。
朝から晩まで拘束され、私は事件取材の合間を縫って再び祭りに戻るという、息つく暇もない二重労働を強いられた。
地域コミュニティへの『義務』という名目で、若手社員のプライベートな時間を無償で吸い上げる構造もまた、今の時代には見直されるべき悪弊でしょう。
押し付け慣習は見直すべき時代に
- 体調不良やケガのリスク
- 本来の業務に支障
- プライベート時間の消失
「昔からやっているから」「地域住民の義務だから」といった理由で、社員や若手に参加を強いるのは見直すべきです。
無理をしてケガをしてからでは遅すぎます。
【まとめ】自分の安全を守るのは、自分しかいない
会社や地域のイベントは「任意参加」であるべきです。
リスクを避けたいなら、正直に上司や自治会長、氏子らに事情を説明し、業務や健康を優先する姿勢を見せましょう。
けがをすれば、会社の同僚にも迷惑が及びます。
慣習に縛られるのではなく、自分の時間と安全を守ることが大切です。
ただ、祭りやイベントは地域の人や仕事仲間と距離が近くなる場でもあります。参加することで得られる人付き合いは少なくありません。
リスクの大きさに応じて判断すべきでしょう。
無理なものは無理だと断る。それは「逃げ」ではなく、プロフェッショナルとしての「自己管理」です。時代は変わりました。あなたの大切な時間を、そして体を、古い慣習の生贄にしてはいけません。

