【心の護身術】信楽事故や震災の現場で私を救った音楽|元記者が教える、折れない心を作る「救済プレイリスト」

ミュージシャンの演奏画像。音楽はつらい時も寄り添ってくれる。事件事故のきつい取材で何度も救われた
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仕事などで気持ちが落ち込んだときや困難な場面に向き合わなければならないとき、あなたはどうしますか。

そんな時、力になるのが音楽です。あなたを癒し、どんな場面でも気持ちを奮い立たせてくれます。

30年以上新聞社で記者やデスクを務めた私は、過酷な職場で音楽に何度も救われました。

凄惨な事件事故や災害現場、上司や先輩の暴力やパワハラ…。精神の限界まで追い詰められた。私の心を折れさせず、再び前を向かせてくれたのは、カーステレオから流れる音楽でした。

長年の記者やデスク経験から勇気をもらい、慰めてくれた音楽を時期や場面ごとに振り返ります。

同じ悩みを持ち、過酷な職場で頑張る皆さんの参考になればと思います。

松任谷由美さんの「やさしさに包まれて」

1曲目は松任谷由美さんの「やさしさに包まれたなら」。

35年以上前、滋賀県信楽町で40人以上が犠牲になった信楽高原鉄道事故。

全国の報道各社が殺到し、あわただしくヘリコプターが上空を旋廻する異常な光景でした。

対向する列車の前部同士が衝突で逆V字にせりあがった現場周辺で、早朝から深夜まで取材に追われました。

当時、駆け出しでY新聞社大津支局勤務(その後、今の会社に転職)だった私は、毎日、大津市から数十キロ離れた信楽町の現場まで車で通いました。

まだカセットテープだった時代、行き帰りの車中のカーステレオで「やさしさに包まれたなら」を聞いていました。

現地の民家を借りた臨時支局では、本社からも応援記者が駆け付け、騒然とした雰囲気。

私は遺体安置所近くに行って遺族に話を聞くのが日課でした。私はまだ取材が甘く、デスクから怒鳴られる毎日が続きました。

そんな時、松任谷さんの「静かな木漏れ陽のやさしさに包まれたなら きっと 目にうつるものすべてがメッセージ」という歌声が心に刺さりました。

大津から信楽に向かう山道を通る風景と重なり、私を慰めてくれた。

「小さい頃は神さまがいて毎日愛を届けてくれた」「やさしい気持ちで目覚めた朝はおとなになっても奇跡は起こるよ」。

曲が流れる間だけ、現実から逃れることができた。

アルバムの中の曲「海を見ていた午後」もソーダ水の中を船が横切る映像が目に浮かび、癒されました。

米米CLUBの「浪漫飛行」

2曲目は米米CLUBの「浪漫飛行」。

前の会社の入社2年目で、転職しようと思っていた時に聞いていた曲です。

デスクや先輩の殴る蹴るのパワハラ、過酷な労働、モラハラ、体調不良もあって限界を感じていました。

「苦しさの裏側にあることに眼を向けて 夢を見てよどんな時でも 全てはそこから始まるはずさ」「トランク一つだけで浪漫飛行へinto the sky  飛び回れこのmy  heart」

茨城県北茨城市出身の米米CLUBリーダー石井竜也さんは、2011年3月の東日本大震災の発生直後、被災地の出身小学校を何度も訪れました。

40代だった私は、水戸支局にデスクとして勤務。石井さんが被災地の子供たちと一緒に歌い、元気づけているのを見て、音楽と人柄が一致していることにとてもうれしく感じました。あらためて勇気をもらいました。

スウィング・アウト・シスターズの「ブレイクアウト」

3曲目は英国のスウィング・アウト・シスターズの「ブレイクアウト」。

新聞記者、デスク、支局長などをやってきて、何か新しいことを始めたいと思うようになったときに聞いたのが、この曲。

「やっと殻を破るチャンスを見つけたんだから」「自分の歩む道を見つけて」「飛び出すのよ」。

ブログを始め、サイエンスコミュニケーターに挑戦し始めたころ。この音楽は背中を押してくれました。

スタイリッシュなボーカル・コリーンとおしゃれなミュージックビデオが印象的です。

仕事に生活に人生に音楽は力を貸してくれる

また、ノラ・ジョーンズの「ドント・ノーホワイ」は新型コロナウイルス感染症が猛威をふるった時に聞いていました。

感染予防のため、人に会えず、不自由な生活を強いられました。

当時、北陸地方の支局長だった私は、会社の感染予防の方針で支局員たちを支局に上げず、電話とズーム、メールでのみでやりとりした。

「きっと何かがあなたを変えてしまったのね」「あの時、私には、どうすればよかったのか分からなかったの」

事務員のベテラン女性にも自宅勤務をお願いし、支局には私一人のみ。電話取りなどの雑用もしなければならず、孤独を感じていた。そんなとき、この美しいメロディーが心にしみました。

Creepy Nutsの「二度寝」は、タイムマシーンをテーマにしたドラマの主題歌。

「竜宮城や鬼ヶ島へ」「数十秒で月の裏へ」

サイエンスコミュニケーター目指して、宇宙物理学を学ぶ私の気持ちを盛り上げるために聞きました。

yoasobiの「たぶん」、m-fioの「come again」は、いいことは長くは続かない。ダメでもがっかりせずに前に進もうよと言うメッセージだと受け取りました。

m-fioのリサさんが15年ぶりに復帰し、再ブレークしている姿に励まされます。

音楽のない人生なんて

私にとって音楽は、感情をニュートラルに戻すための「心理的な儀式(コーピング)」でした。

悲痛な叫びが渦巻く現場から離れ、旋律に身を浸す。そうすることで、肥大化した感情を一度脇に置き、冷静な目を取り戻すことができたのです。

深夜の山道、ヘッドライトが照らす暗闇の中で、何度も何度も巻き戻しては聞き返したユーミンや米米CLUB。あのカセットをガチャンと押し込む物理的な感触こそが、私にとって「戦場」へ向かうための覚悟のスイッチでもありました。

忙しい毎日の中で心が悲鳴を上げているのなら、自分だけの「救済プレイリスト」を作ってみてください。辛い時にそっと背中をさすってくれる曲、殻を破る勇気をくれる曲。ストレスフルな現代を生き抜くための最強の護身術です。

音楽がくれる力を味方につけて、明日もまた、一歩前へ踏み出していきましょう。

音楽のない人生なんて考えられない(No music, No life)

まとめ:音楽は、困難を生き抜くための「心の防波堤」

私の経験から言える、音楽を味方につけるためのポイントを整理します。

  • 「現実逃避」をポジティブに活用する  過酷な現場から帰る車中、ユーミンの歌声に浸る時間は、肥大化した感情をリセットし、再び戦場へ向かうための大切な儀式でした。時には現実から目を逸らし、旋律に身を委ねる勇気が必要です。
  • 音楽を「記憶の栞(しおり)」にする  米米CLUBの『浪漫飛行』が、数十年後の被災地で石井竜也さんの姿と重なり再び私を勇気づけたように、音楽は当時の決意や感動を呼び覚ますタイムマシンの役割を果たしてくれます。
  • 新しい挑戦の「背中」を押してもらう  慣れ親しんだ殻を破り、サイエンスコミュニケーターという新天地へ踏み出すとき、音楽は恐れをワクワクに変えるエネルギーをくれます。

人生には、自分の力だけではどうにもならない夜があります。そんな時、そっと寄り添い、再び前を向かせてくれる「自分だけのプレイリスト」を持っておくこと。それは、ストレスフルな現代社会を生き抜くための、何よりの知恵となるはずです。

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報道記者
主要マスコミに勤務。記者、デスクとして東京、大阪、地方での取材経験あり。最近はサイエンスコミュニケーター目指して宇宙物理や量子力学を学んでいる。
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