「努力は報われる」は呪いの言葉? 元支局長・デスクが教える、理不尽な組織で自分を守り抜くための「適正な努力」と「かわし方」
「努力は報われる」「誰かが必ず見ている」
上司や先輩からしつこいくらい聞かされました。その度に嫌な気持ちになります。
社員をさぼらせないようにする呪いの言葉です。上司は部下の失敗や悪いところは、すぐに見つけて攻撃してくるくせに、いい仕事や振る舞いはほとんど気づかない。
メディアの職場では、よく見られる光景です。
特に若い記者は、上司や先輩の理不尽な要求や言動からどう逃れるかはメンタルや健康を守ることに直結します。
この呪縛にかからないためにはどうしたらいいのか。
相手を見ながらうまくかわしていくことが重要です。30年以上新聞社で記者やデスク、支局長をした筆者がその対応を解説します。
管理職が気づいていない落とし穴
部下を追い込むような無責任な発言を繰り返し浴びせる管理職たち。この言葉が部下を励まし、いい方向に導いていると勝手に満足している。
しかし、管理職ほど自分の言動や行動が部下に見られていることに気づいていない。自分の言葉が部下に受け止められていないことを知らない。
自分をいい上司と思い込み、寄ってくる外面のいい部下を登用したがる。
彼らも役職を受けたとたん横柄になり、社内では同じことが繰り返される。
「誰かが必ず見ている」
「誰かが必ず見ている」
この言葉が好きな先輩がいた。当時、彼は国土交通省担当のベテラン記者。
耐震偽装事件などで私たち遊軍記者がクラブに応援に行くと、その度に彼は、前述の言葉で私たちを説教しました。
彼は夕刊時間帯に出社せず、応援記者ばかりに記事を書かせていました。
浜崎あゆみのファンで、記者クラブの社の席に大きなポスターを3枚ほど張っていた。コンサートにもよく行き、「あゆは神だ」と話していました。仕事よりも、あゆを優先していました。
私から見たら「あなたの方こそ見られている」「ちゃんと働けよ」と言いたくなる。
応援記者たちは皆、彼のことを嫌っていました。
「何でも全力を尽くせ」「他社がいなくなるまで現場を離れるな」
この言葉も上司からもくどいほど言われた。言葉通りにしていたら体がもたない。
いかにやったふりをするか、ばれないようにするかばかり考えていた。

「努力が報われない」現実
「努力は報われる」
がむしゃらに努力したからといって上司が評価してくれるわけではない。報われる根拠も示してくれない。徒労に終わることは少なくない。
出世も努力と考える社員もいる。
本社には、仕事の成果を編集幹部たちにアピールし、幹部のジョギングにも付き合う努力家のベテラン記者がいた。会食では、幹部が好きそうな店を率先して予約するなど気に入られようと全力で動いていた。
周りからも好人物と映り、次の要職が約束されているように見えた。
ところがあてにしていた編集幹部たちがごっそり入れ替わると、同じグループとみられたのか、本社から地方の支局に出ることに。
望まなかった辞令でしょうか。
彼の地方での評判はよくありません。「支局の手伝いはほとんどしない。おかげで他の支局員は休めない」と嘆いていた。
望まぬ異動で、やる気をなくしたのでしょうか。
「努力は報われると聞いていたのに…」と彼から恨み節が聞こえてきそうです。
努力が報われない会社で生き残るために
「とにかく汗をかけ」
編集幹部は生成AIを使うことを禁止し、若い記者の尻を叩きました。
「原稿を書く力がつかない」「取材をしなくなる」「AIの言うことは信用できない」「努力しなくなる」などがその理由。
AIを無視したら新聞はさらに遅れをとります。使いこなし、危険性や有効性を伝えていくのが新聞の役目のはず。
校閲記者が人員削減されていく中で、支局記者やデスク、本社デスクにとって、ジェミニなどの生成AIは間違いを効率的に見つけてくれる頼もしい武器。
文章の矛盾も指摘してくれるなど効率が格段にアップします。
周りから異論が出たのでしょうか。半年後、生成AIのジェミニは社内で一部使えるようになりました。
努力が正当に評価される環境に身を置くこと
「努力は報われる」「誰かが見ている」
これらの言葉は、励ましに見えて、無駄なことにも全力でやらせ、自由を縛る呪いの言葉になりかねない。柔軟な思考の妨げになります。
努力は報われないこともよくあります。大切なのは、ただ続けるのではなく、努力が正当に評価される環境に身を置くことです。
何でも努力を押し付けてくる職場では、努力しているふりをすることとは、自分の身を守るためにやもえないことです。
理不尽なことをいかにコントロールし、マネジメントするか。生き残るための仕事の一つだと思います。なかなか難しいけど。
まとめ:呪縛を解き、自分のための「努力」を取り戻す
上司や組織が放つ「誰かが必ず見ている」「全力で汗をかけ」という言葉。それらは時に、社員の思考を停止させ、都合よく動かすための「呪い」として機能してしまいます。
理不尽な精神論に振り回されず、自分を守りながら生き抜くための鉄則を整理します。
- 「誰かが見ている」の正体を見破る 説教をする本人こそが、実は周囲から「働かない姿」を見られているという皮肉な現実があります。言葉の主体の行動を冷静に観察し、その発言に振り回される価値があるかどうかを判断しましょう。
- 「報われない努力」に執着しない 上司への忖度や、非効率な旧習への固執は、人事異動一つで簡単に霧散してしまいます。がむしゃらに汗をかくことだけを良しとする風潮からは、一歩引いた視点を持つことが大切です。
- テクノロジーを武器に「賢く」動く 生成AIを「努力の敵」とみなすような硬直した価値観に付き合う必要はありません。新しい道具を使いこなし、余計な労力を削減して自分の時間を守ることこそが、現代における真の「生き残り戦略」です。
努力は、他人の評価を得るための「捧げもの」ではありません。自分が納得し、正当に評価される場所を見極めるための「投資」であるべきです。組織の呪縛をうまくコントロールし、自分自身の人生をマネジメントしていきましょう。


