「旅人」と呼ばれた地方赴任で学んだこと|誇り高き城下町の文化と郷に従う知恵

東京本社から地方支社に赴任すると、そこはまるで別世界でした。
東京から地方へ|まるで別世界だった赴任生活
市民はみんな「地元が一番!」と信じて疑わず、食も工芸も文学も、果ては神社仏閣まで東京より上だと胸を張る。まるで街全体が江戸時代テーマパーク。最初は戸惑いましたが、観光気分で楽しめば、新鮮な気もしました。
地元愛が強すぎる社員たち|「旅人」と呼ばれた私
地方支社で働く社員も地元愛が強く、東京本社から来た私たちは腰掛とみなされました。「旅人」と呼ばれ、よそ者扱いされました。
彼らの文化や縦社会に入り込む余地はほとんどない。
紙面もこの地域独特でした。めったにない全国ニュースが飛び込んでくると、反応は鈍かったです。
ある事件で、検察が真犯人が判明したとして再審請求した際、地元採用の記者たちはローカルニュースに注力して動けませんでした。口をはさむことを嫌う彼らに配慮しつつ、東京社会部組の私たちは取材を進めました。
取材の壁を越える|敵の敵は味方の戦略
彼らとうまくやるためにはどうしたらいいのか。共通の敵をつくれば、うまくいくかもしれないと思いつきました。
地元紙をライバル視する現地社員。その敵意を逆に活用し、共通の目標で連携することで関係がスムーズになりました。
ことあるごとにライバル紙の弱点や攻め方について話し合い、特ダネを書くために相談したりしました。結果に結びつけば、彼らも悪い気はしません。ライバル紙に対して、それが武器になります。
地元紙を出し抜く記事を繰り返し本紙に掲載すると、支社の現地デスクやキャップの機嫌も良くなり、スムーズな関係が可能になりました。
高級カニの価格交渉から見えたプライド
赴任先では東京より高いと思う商品も少なくありませんでした。
繁華街にある観光市場に行くと、ズワイガニやセイコガニは3倍ほどの値段で売られていました。私が買い物に訪れた際、地元住民であることを伝えると、店主は半値以下にしてくれました。さらに高いと訴えると、再度値下げをしてくれました。
「安いものは舐められる。値段は高く設定しろ」。市長自らが商工会や観光協会に指令を出していました。県外者には、値段を高くすることで、高級品としての価値をさらにアップさせていました。
江戸時代から続く気位の高さと文化
市民の気位が高いというのは、江戸時代に100万石の藩として栄えた歴史が背景にあります。全国から芸術家、作家が集まってきました。茶屋街も発展し、芸妓による舞も文化として発展しました。風情ある街並みが残り、映画やサスペンスドラマの舞台に繰り返し、使われています。
芸術と文学が息づく街
何より、料亭文化が今も残っています。料理も海の地、山の幸を使った職人の味が堪能できます。日本酒も素晴らしい。器も芸術性の高い九谷焼です。魅了されないわけがない。
期間限定で、お昼にコース料理や芸妓さんとのお座敷遊びも楽しむことができました。プライドがあるからこそ、高い文化が守られていると思います。
ゆかりの作家も素晴らしい
地元にある美術工芸大学からは著名な画家や陶芸家などを多く輩出しています。東京・銀座の複数の画廊では毎年、卒業生による合同展覧会が開催されています。ニンテンドーのゲームクリエータで元社長も同校出身者です。
この大学には学園祭などでよく取材に行きました。街中を練り歩く仮装行列は、美大生の趣向を凝らした衣装が印象的でした。
泉鏡花、徳田秋声、室生犀星、五木寛之、竹久夢二、萩原朔太郎、中原中也、西田幾多郎らゆかりの作家も多い。彼らの足跡をたどるだけでも楽しいです。
2年間で学んだ「郷に入っては郷に従え」
地方での2年間の経験は、東京では得られない発見の連続でした。地方都市で、これだけの文化レベルを保っているのは驚きです。
「郷に入っては郷に従え」の言葉を身に染みて学びました。
