転職を考えるべきか。「合わない上司」は遠隔操作せよ。テニプリ追っかけ記者をバッファにし、恐怖の女性支局長を攻略したデスクのサバイバル術

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「合わない上司と、どう接したらいいのか……」

新聞社で若手記者たちと話をしていると、最も頻繁に相談されるテーマの一つがこれです。パワハラ型、モラハラ型、あるいは根本的な価値観の不一致――理由はさまざまでしょう。

しかし、30年以上新聞社で記者やデスク、支局長を務めてきた私の経験から言えば、どんな嫌な上司であっても、それぞれのタイプに応じた明確な「対応策」が存在します。

感情的にぶつかるのは最悪の手です。やるべきことは、ハラスメントの客観的な記録を残し、相手の性格や行動パターンを予測して、背後から「遠隔操作」すること。私が実際に体験した、北関東の支局での凄絶かつ奇妙な「上司攻略作戦」をもとに、具体的な事例を挙げて説明します。

1. 恐怖で支配する女性支局長と、支局員の心を一つにした「共通の敵」

私が北関東の県庁所在地にある支局でデスク(現場責任者)をしていたときのことです。当時赴任してきた女性支局長は、絵に描いたようなパワハラ型で、私とは価値観が1ミリも合わない人物でした。

「人間は恐怖を与えないと動かない」――それが彼女の口癖でした。

不器用な若い女性記者をわざわざ個室に呼び出しては、「あなたなんか、もう会社を辞めてしまいなさい!」と激しく叱責する。

男性記者に対しても、「お前を〇〇部に飛ばそうか」と威圧的な言葉で脅す。そんな光景が日常茶飯事でした。

支局の空気は常に重く、針のむしろのような緊張感が絶えませんでした。

管内の記者は支局と通信部合わせて7人。

デスクである私は、このままでは部下たちが潰されてしまうと危機感を抱きました。そこでまず、支局員たちと頻繁に食事をしながら、「あの支局長のやり方は明らかにおかしい」という認識を徹底的に共有しました。

組織の中に“共通の敵”を明確に設定することで、逆に支局員たちの結束をガチガチに強めることに成功したのです。

同時に、私は東京本社の幹部や上司に対して、この支局長の不条理な言動を小まめに、かつ具体的に報告し続けました。

幸いにも本社には理解のある幹部が多く、状況を察して本社から直接、支局の様子を確認しに来てくれるようになりました。

結果として、支局長を飛び越えて本社との距離が縮まり、若手を守るための強固な連携ラインが仕上がったのです。

2. 救世主は「テニミュ」の追っかけ:女性記者Nが果たした奇跡のバッファ役

そんな緊迫した支局内に、ある日、もう一人のキーパーソンが配属されてきました。支局長の「同期」にあたる、女性記者Nです。

彼女は事務職から10数年ぶりに取材現場へ戻ってきたばかりの記者でした。そのため記事の執筆に不慣れで、当初は周囲の若手記者たちとの関係もぎこちないものでした。

さらに彼女には、もう一つの顔がありました。

ミュージカル『テニスの王子様(通称:テニミュ)』に出演する若手イケメン俳優の、熱狂的なおっかけファンだったのです。

全国の公演スケジュールに合わせて、自分の担当エリアの仕事があろうがなかろうが「この日は絶対に休みます」とマイペースに休暇を要求する。地方公演から帰ってくると、同じ写真集を一度に10冊も買い集め、「今回はついに俳優さんとハグできたの!」と、嬉しそうに支局内で話し出す。

当然、24時間体制でニュースを追っている他の若い支局員たちからは、「あいつは何をしに現場に来ているんだ」と冷ややかな目で見られ、うとまれる存在になっていきました。

同期というカードを使い、上司の「猛毒」を無害化する

しかし、デスクである私は、この一見不調和に見えるNの存在を凝視しました。

「この人にしかできない、最大の役割があるのではないか」

私は、問題のパワハラ支局長とNが「同期入社」であるという事実に着目したのです。私はNのもとへ行き、「支局長が孤立してピリピリしている。同期のあなたにしかできないから、どうか彼女の話し相手になってあげてほしい」と、そっとお願いしました。

Nは嫌な顔ひとつせず、その大役を快く引き受けてくれました。 それからというもの、Nは休日に支局長をドライブに連れ出したり、仕事終わりに2人でお茶や食事に行ったりして、支局長の「孤独とストレス」をその圧倒的なマイペースさで受け止め続けたのです。

効果は劇的でした。同期に愚痴を吐き出す場所を得たことで、支局長の若手に対するパワハラ的な言動は、目に見えて徐々に減っていきました。不思議なことに、支局長を裏でコントロールして自分たちを守ってくれているNの姿を見て、支局員たちの彼女への評価も180度変わりました。

職場の陰口は完全に消え去り、チームとしての空気は最高に良くなったのです。

3. バッファローの癖を見抜け:敵の行動分析と「嫌な上司の使いよう」

上司を遠隔操作するためには、相手の「行動パターンの分析」が不可欠です。

あのパワハラ支局長を観察していると、感情を爆発させて怒鳴り散らす直前、必ずバッファローのように頭を左右に激しく振り、長い髪がブワッと渦のようになる明確な『予兆の癖』があることが分かりました。

「あ、渦が巻いたぞ。警報発令だ」

支局員たちはその合図を見逃さず、彼女がキレる前に先回りして必要な書類を提出したり、懸案事項の報告を済ませるなどして、トラブルを未然に防ぐ防衛体制を確立していきました。

こうしてコントロール下に置くことで、面白い現象が起きました。

支局内が完全に安定した結果、支局長が持つあの「外向きの怖さ」や「威圧感」が、他社や取材対象とのタフな交渉の席で、最強の武器として役立つようになったのです。その度、私はデスクとして「さすが支局長、助かりました」と大人の謝意を伝え、彼女の自尊心を満たし、さらに扱いやすくしていきました。

嫌な上司であっても、見方を変えれば組織を前に進めるための「強力なコマ」に変えることができる。それを見出していくことこそが、マネジメントの本質なのです。

4. 佐久間宣行氏が語る「パワハラ型」と「価値観不一致型」の冷徹な攻略法

先日、私が聞きに行った元テレビ東京のプロデューサー・佐久間宣行さんの講演会でも、まさに「合わない上司との向き合い方」が明快に語られていました。

佐久間さんは、自身のテレビ局員時代の過酷な経験をもとに、攻略すべき上司を「パワハラ型」と「価値観の不一致型」の2つに明確に分けて説明していました。

① 「パワハラ型」には、感情を捨てて客観的な『証拠』で戦え

理不尽に怒鳴る、暴言を吐くといったパワハラ型に対して、感情的に言い返すのは愚策。佐久間さんが推奨するのは、徹底的な「記録(エビデンス)の収集」です。

いつ、どこで、どんな理不尽な指示や暴言を吐かれたのか。スマートフォンの録音機能やノートに克明にログを残し、それを会社の労務担当やしかるべき人事部署に淡々と提出する。佐久間さん自身、この「客観的な証拠の力」を使って、社内の制作部から問題のあるハラスメント人物を完全に排除した成功体験を語っていました。

組織を動かすのは、被害者の涙ではなく、冷徹なファクト(証拠)なのです。

② 「価値観の不一致型」には、相手の脳内をハッキングして『遠隔操作』せよ

一方で、人間としては悪くないが、仕事のやり方や方針が根本的に合わない「価値観の不一致型」の上司には、全く別の対応が必要です。

佐久間さんは、「上司の性格や判断基準、こだわりを徹底的に分析し、その行動パターンさえ把握してしまえば、部下の側からいくらでも遠隔操作できる」と断言します。

テレビ東京がかつて「旅番組」にばかり偏重していた時代、当時の佐久間さんの上司はお笑い番組に全く理解がなく、佐久間さんを旅番組の部署へ異動させようとしました。

そこで佐久間さんは、「お笑いは旅番組と違って、これだけの数字(視聴率)の伸び代があり、イベントをやればこれだけの集客と利益が出る」という、上司が最も好む『具体的な数字とメリット』だけを並べて脳内をハッキングし、説得に成功したのです。その後、上司のお笑いに対する見方はガラリと変わり、佐久間さんは自分のやりたい企画を通し続けました。

佐久間さんは「自分と同じような同質の上司や同僚ばかりの職場だと、耳の痛い異なる意見が入らなくなり、結果として面白い番組は絶対に作れなくなる」とも指摘していました。合わない上司の存在すらも、視点を変えれば「思考のノイズ」として、自分の仕事のクオリティを高めるために利用できるのです。

まとめ|どんな上司も100%の悪人ではない。活かし方を知る者が生き残る

職場にいる「合わない上司」に日々ストレスを溜め、心をすり減らしているあなたに、この事実をお伝えします。

  • パワハラ型なら: 感情を交えず、粛々と日記や録音で「記録」を取り、組織のルールで排除する。
  • 価値観の不一致型なら: 相手の判断基準を冷徹に分析し、先回りの情報提供で「遠隔操作」する。
  • 孤立しているなら: 職場の同僚と裏で繋がり、共通の敵として結束のバッファ(緩衝材)を作る。

どんな上司であっても、神様でもなければ、100%完全無欠の悪人でもありません。 「どうすればこの不条理な環境を利用して、自分とチームを前に進められるか」というゲームの視点を持った瞬間、あなたの職場での立ち位置は「被害者」から「支配者(チェスプレイヤー)」へと変わります。

そして、そのように「一癖も二癖もある猛獣(上司)」を転がし、組織をサバイブしたという圧倒的な実務経験こそが、将来あなた自身が人の上に立ち、大きなプロジェクトを率いるための「最強のリーダーシップ(市場価値)」へと変わるのです。

もし今、目の前の上司の猛毒に耐えかね、自分の力だけではコントロールできない限界を感じているなら、視野を外の世界へ広げるタイミングかもしれません。

どうすれば組織として前に進めるか」を考えることで、関係は必ず変わります。
その経験が、みんなを導く力にもなるはずです。

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報道記者
主要マスコミに勤務。記者、デスクとして東京、大阪、地方での取材経験あり。最近はサイエンスコミュニケーター目指して宇宙物理や量子力学を学んでいる。
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