リーマン物語②
fourier1
リーマン物語
サラリーマン生活を振り返ると、「誰にでも元気にあいさつしなさい」とうるさく言う上司が多かった。自分にひれ伏せとでも言っているかのよう。こういうタイプとは、休みの日に街で出会わないよう細心の注意を払った。私自身は、だれかれ構わずにあいさつするのは得意ではない。仕方なくしている。毎朝、上司に元気にあいさつすると、必ず仕事を押し付けられる。扱いやすい奴とみられる。つまり損なのだ。
別の社員たちは、小声で「おはようございます」と言うのにとどめたり、苦しそうに会釈をして無言で通り過ぎたりしている。体調が悪いのか、何か身内にあったのだろうか。上司は勝手に想像してくれる。私も真似しようと思い、試してみたが、「本当は大丈夫なんだろう」とばれてしまう。結局は仕事を押し付けられる。急に変えても遅いのだ。ただ、社会部長への年賀状で、ワールドカップサッカーの取材班になりたいと書いたら、実現したこともあった。使いようなのかも。
東京本社社会部に異動になったばかりの時のこと。人望のあった幹部が退任するときの会があった。それに出ないと社会部の仲間に入れないと思い、私は慌てて出席することにした。居酒屋の大広間で長く組まれた机に50人ほどが座り、幹部はなじみの記者たちと盛り上がった。私は笑顔でそれを見ていただけ。最後に参加者一人ずつ幹部へあいさつすることになった。後ろにいた私にも回ってきた。立ち上がると、記者たちから「なんでお前がいるのか」と叱られた。私は幹部とはまったく面識がない。あいさつするエピソードも持っていない。何も言えなかった。穴があったら入りたかった。あいさつは怖い。
この回からは働くをテーマに書いていこうと思う