「和歌山カレー事件」判決日に激怒した裁判長。元新聞デスクが法廷で見た、司法の“アバウトすぎる正体”と再審無罪のリアル

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裁判傍聴といえば、テレビドラマのように厳粛で秩序ある場面を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、裁判は思ったよりアバウトで人間的。感情も入り込みます。実際の法廷では思いもよらない出来事が起きることがありました。

裁判長が一度、配布した判決要旨を全記者から取り上げたことがありました。記者一人が厳粛な法廷を走って外に出たから。

走っていない他社の記者まで共同責任として判決要旨を返さなければいけませんでした。皆、納得がいきません。

私は記者やデスクとして30年以上、全国の裁判所で数多くの法廷を取材してきた。本記事では、地方裁判所で経験した「裁判長の意外な行動」と「記者席で起きたハプニング」を、実体験に基づいてお伝えします。

司法について考える機会になればと思います。

裁判長は本当に公正か?傍聴で見た驚きの行動

判決要旨を取り上げられたのは、私が30代前半、近畿地方で「和歌山カレー事件」の地裁判決を取材したときのこと。

判決言い渡しの瞬間、記者席から一人のテレビ局員が出口に向かって走っていきました。おそらく地裁前に待機しているテレビカメラの前で速報を伝えるためでしょう。

判決要旨を回収?裁判長の異例の命令

閉廷後、記者室で裁判所から判決要旨を受け取り、記事を書き始めたところ、地裁職員が入ってきて「すべての社から判決要旨を回収します」と告げました。

理由は、先ほど走ったテレビ局員の行動に裁判長が激怒し、「走った本人が名乗り出るまで全員から要旨を回収する」と命じたからです。

私たちは静かに傍聴していたにもかかわらず、有無言わさず責任を取らされました。こんなことは取材で初めてでした。

テレビ局員の申告と要旨の返却

結局、2時間後にテレビ局員が名乗り出て、判決要旨は返却されました。しかし、

記事を書くことができず、業務に大幅な遅れが出ました。締め切りがあるのに裁判長が業務を妨害するのはありえない。

裁判長の対応は子供じみており、公正さに疑問を感じざるを得ません。

裁判長らしからぬ、感情に任せた判断だったと言わざるを得ません。

ただ、この裁判では、被告人の弁護士が公判中に携帯電話を鳴らしたり、本件からずれた証拠調べや被告人質問を繰り返し、無意味に裁判を引き延ばすなど、裁判長にはイライラが募っていたのかもしれません。

1カ月で2度の無罪判決という異例

デスクになってからは、関東地方の地裁支部で再審無罪の取材を経験しました。

一つは、強盗致死罪で有罪が確定し刑期を終えた男性2人が、再審で無罪となった布川事件の裁判。

この裁判長は、布川事件の担当として着任した直後、まず別の事件で無罪判決を出し、そのわずか1カ月後に布川事件でも無罪判決を言い渡しました。一つの地裁支部で短期間に2度の無罪判決が出るのは異例中の異例でした。

酷似した判決文とその疑惑

さらに驚いたのは、1カ月前の判決文と再審無罪判決文が書式や論理展開まで酷似していたことです。まるで再審判決を書くための練習をしていたかのように感じました。その直後、この裁判長は高裁へ戻っていきました。

市民が裁判傍聴に関心を持つべき理由

民事を含め、実際の裁判を傍聴していると、争点がぼやけ、やり取りが核心から逸れる場面を多く目撃します。

刑事事件にいたっては、証拠調べが十分でないまま判決が下されることも少なくありません。これこそが、日本の冤罪の多さにつながっているのではないでしょうか。

私は記者生活の中で、別々の赴任地で計3件の再審無罪事件に関わりました。これは一人の記者としてはかなり多い方だと思います。

そもそも検察側は、膨大な証拠を集めているにもかかわらず、よほどのことがない限り開示しません。その中には、被告側に有利になる(無罪を証明する)証拠が含まれていることもあるのですが、弁護側はそれを知る由もないのです。

ここには歴然とした情報の格差があります。裁判長の指揮で検察側に開示を求めることはできますが、そもそも「検察がどんな証拠を持っているか」が分からなければ、開示の求めようがありません。検察側が、自分たちに不都合な証拠を自ら積極的に出すことはまずないからです。

だからこそ、検察側がどんな証拠を集めているのか、そのリストだけでも開示させるような「制度の改定(再審法の改正)」が極めて重要な焦点となっています。

実際、再審無罪となった「袴田事件」では、警察側が捏造したと言わざるを得ない証拠品(5点の衣類など)が後から判明しました。

また富山県では、性的暴行事件において、犯人の足跡の大きさや体液が本人のものとは違っていたにもかかわらず、警察、検察、裁判官、そして弁護士までもがそれを見過ごし、冤罪を作り上げてしまいました。実に見ずさんな司法手続きであり、「人権軽視」と批判されても仕方がありません。

2026年7月、改正刑事訴訟法が参院本会議で可決、成立しました。裁判所が「再審請求理由に関連する証拠」から、必要性を考慮して証拠提出を命じる制度を新設。一方で、証拠開示の目的外使用を罰則付きで禁止した。

これについて専門家は、改正法では、裁判所が検察に提出を命じることができるのは「再審請求理由に関連するもの」に限定。これまでは裁判所の裁量で請求理由にとらわれず幅広い証拠開示が認められるケースもあり、「現状の開示範囲より非常に狭まる可能性がある」と指摘する。

裁判をめぐっては、市民感覚からして「おかしい」と思える部分がまだまだ放置されています。 裁判員制度が定着してきた今だからこそ、私たち市民がもっと裁判を傍聴し、関心を持つこと。その監視の目こそが、日本の司法をより健全なものへと変えていく第一歩になるはずです。

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報道記者
主要マスコミに勤務。記者、デスクとして東京、大阪、地方での取材経験あり。最近はサイエンスコミュニケーター目指して宇宙物理や量子力学を学んでいる。
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