『ヒーラー』は『癒し業』? 覆面レスラーは掲載OK? 30年取材した元デスクが明かす、地方選挙報道の『6文字の攻防』と取材リスク
地方でも選挙報道は間違えられず、公正を保たねばならない。伝える側は毎回、神経をすり減らして取材や確認作業にあたっています。
マスコミは選挙になると候補者を取材し、経歴や掲げる政策について聞きます。
最近は、幅広い層が立候補しています。中には無投票阻止のため本人と関係のない自治体の首長に立候補したり、名前を売るために出る人も。選挙費用をごまかしていると疑われるケースもありました。
取材や経歴カード記入に応じてくれない候補者もいます。選挙活動をほとんどしない候補者も珍しくありません。
それでも私たちは、粘り強く彼らに交渉して取材を受けるよう促しています。
無機質と思われがちな選挙報道ですが、裏ではさまざまな攻防が繰り広げられています。その実情を知ってもらい、選挙に関心をもってもらいたいと思います。
本記事では、記者やデスクとして地方選挙を30年以上取材してきた視点から、候補者対応の現実や取材の危険性、多様化する地方政治の現状をお伝えします。
顔写真入り経歴記事はこうして作られる
地方選挙の報道では、候補者の顔写真と経歴をまとめた記事が定番です。
記者が候補者カードを配布・回収し、インタビューや写真撮影を行っています。
現職議員には議会開催日に直接配布、新人候補には事務所や自宅まで訪問。効率化のため、複数のメディアが協力して作業することもあります。
こうして集めた情報をもとに、テレビや新聞でおなじみの経歴記事が完成します。

取材拒否の候補者と対応の難しさ
多くの候補者は取材に応じますが、取材や経歴カードの記入を拒否する人もいます。
その場合、紙面や放送での扱いは小さくなったり、顔写真を空欄にしたり、場合によっては紹介記事自体を掲載しないこともあります。
遠方在住で、事実上取材が難しい候補者もいて、記者にとっては大きな負担です。
無投票回避と“常連候補者”の存在
選挙戦が成立するためには、法定得票数を得る必要があります。
立候補するには、それなりの責任が伴うということです。票が取れない候補者は供託金を没収されます。
無投票回避を狙い、全国の首長選に毎回立候補する“常連候補者”も存在します。
別の県に住み、選挙活動は行わないため、記者は住居地まで足を運んで取材することになります。
本人はいろいろと出馬理由を説明しますが、本心は分かりません。売名行為やポスター代水増しの疑惑などもささやかれたりしています。
いくら本心が売名やパフォーマンスに見えたとしても、相手は法的に認められた立候補者です。偏見を持たず、住居地まで足を運んで真面目に取材し、紙面に平等に掲載しなければならない。その『公正さの担保』と『現場の疲弊』の狭間で、記者は常に葛藤しています
こうした人物が現れるかどうかは、選挙担当記者の間で常に話題になります。
経歴表記の工夫とルール
候補者の1行スタイルの経歴は、紙面に収まるよう6文字以内で表記する必要があります。1行経歴は候補者や当選者の表一覧などで掲載されます。
「スーパーメディアクリエーター」のような長い肩書きは「動画編集業」へ、
「ヒーラー」のような分かりにくい職業は「癒し業」といった形に短縮。
一方、顔写真付きの詳細経歴もあります。字数は21や28字など知事、市長、県議、市議によってスタイルが決まっています。こちらは地方版の候補者紹介や第一声の記事などで使います。
地方プロレス団体のレスラーの場合、マスク姿の顔写真とリングネームを掲載するかが議論となり、社会的認知があるとして掲載が許可された例もあります。
選挙取材に潜むリスク
近年、選挙取材はよりリスクを伴うようになっています。
記者が候補者に取材している様子を無断で動画撮影し、SNSで拡散、名刺情報をネットに晒すなどの事例も発生しました。
地方選をめぐる状況が大きく変化する中、報道の公平性や正確性を保つため、記者は従来以上に慎重に判断しています。
候補者同士の激しいぶつかり合い、中傷合戦も問題になっています。
立候補すること自体が危険にさらされるのは断じてあってはいけません。度を越えた妨害行為も指摘されています。当選を目的としない出馬や利益目的の選挙利用もささやかれています。
セカンドキャリアとしての地方政治
かつて地方議会は、行政経験者や団体役員出身者が中心でした。
しかし最近では、カラオケ店主、元地下アイドル、コスプレイヤー、ヨガ講師など多彩な経歴の市民が立候補しています。
定年退職者や転職者が第二の人生として地方政治に挑戦するケースも増え、市民参加が進んでいます。
私の元上司も70歳で出身自治体の市議に当選しました。自治会活動もしていたので、転身先としては、合っていたのかもしれません。
まとめ:市民参加が地方を変える
地方選挙は候補者にとっても記者にとっても多くの準備と調整が必要な場です。
立候補を考える方は、こうした現場の現実を知っておくことで、よりスムーズに活動を進められるでしょう。
多様な市民の意見を反映させるのが地方自治体の首長と議会です。
転職先としての地方政治も増えるかもしれません。社会人として培ってきた経験を生かす場として、さまざまな人がかかわることは、よりよい地域をつくるのにかなっているのかもしれません。



