【記者の現場ノート】「知らなかった」では済まない異文化理解|新聞社を包囲した抗議デモの教訓
日本の職場や地域で、国籍が異なり、宗教や文化が違う人たちとうまくやってくにはどうしたらいいのか。
グローバル社会となった日本では、直面している課題です。相手の国や民族が大切にしている価値観を蔑むようなことをしたら国際問題になりかねない。
暴動やテロの恐れすらあります。日ごろから相手の文化、宗教への理解が必要です。知らないでは、すまされない。私が勤務する新聞社の10年前の事例からそのことの大切さを解説します。
宗教的配慮を欠いた記事掲載で抗議が殺到
2015年、私が東京社会部に所属していたとき、フランスの雑誌社が過激派に襲撃され、多くの死傷者が出た「シャルリー・エブド襲撃事件」起きました。理由は、雑誌社がイスラム教を揶揄する偶像を描いた風刺漫画を掲載したためです。
私の勤務する新聞社は、その事件を朝刊に報じる際に雑誌社の風刺漫画を紙面に2回載せました。この宗教では絵や像で表現することは偶像崇拝につながるとして禁じています。
紙面では極めて配慮を欠いた判断でした。
掲載のゴーサインを出したのは外報部デスクや整理部員たち。
掲載をどうするかの議論はなかったようです。他の新聞やテレビは掲載や放映を見送っていました。

異国の文化や宗教理解を欠いた対応
掲載後すぐに、日本在住のパキスタン人団体から会社に強い抗議が寄せられました。数十人が本社前に集まり「なぜ偶像を掲載したのか」と声を上げ、横断幕を掲げて新聞社を非難しました。
会社が入るビル内は緊迫した雰囲気に包まれ、不要不急の社員は出社禁止とするほどでした。
社会部デスクであった私は出社せざるを得ず、地下から会社に出勤しました。窓の外は抗議の人々、周囲には警備に集まった警官たち…。
仕事に集中できず、身の危険を感じた瞬間でした。
社から気をつけてといわれたが、どう注意したらいいのかわからない。警視庁担当記者から「何かあったら警官がすぐに突入する態勢にあるから大丈夫」と説明を受けたが、気持ちは落ち着かなかった。
最終的に社の幹部が団体の代表と協議し、謝罪文を紙面に掲載することで合意しました。翌日、囲み記事で載りました。
もし対応を誤れば、国内問題だけでなく国際問題に発展していたかもしれません。危機管理の重要性を身をもって実感しました。
なぜ紙面化するときに偶像の写真が問題にならなかったのか。中東特派員のデスクもいたのに。日本の新聞なら、外国人は読んでおらず大丈夫だと思ったのでしょうか。
現在は、SNSの発信一つで世界中から批判を浴びる時代。企業が独りよがりの判断を下すことが、どれほどのリスクを孕むかをこの事件は物語っています。編集局の甘さが浮き彫りになりました。
グローバル化時代に求められる危機管理
この経験から学んだことは、
- 文化や宗教を軽視した判断は、企業全体を危険にさらす
- 国際的な事案に関わるときは、専門家や経験者の意見を必ず取り入れる
- 「知らなかった」では済まされない。日頃から異文化理解を深める努力が必要
という点です。
特にメディアは海外にも翻訳され、紹介される時代。ネット社会では一瞬で世界に拡散します。より慎重な判断が求められます。
まとめ|10年前の事件から、現代の危機管理(BCP対策)を学ぶ
イスラエルとガザにみられるように今も宗教対立の問題は、現代の政治、軍事的な対立と複雑に絡み合っています。
国境がボーダレスになった今、多くの外国人が日本で暮らしています。宗教も多岐にわたります。SNSでどこでも日本の宗教をめぐる情報も取り出せます。
もはや宗教の問題は、無関心ではいられません。新聞報道ならなおさらです。
イスラエルとガザの問題、世界各国で起きている宗教対立の問題をどう報じるのか。日本の立場はどうすべきなのか。これまで以上に深い洞察が必要です。
職場でも異文化理解を怠ると、致命的な危機に見舞われます。会社に危険が及ぶような状況になれば、リモートワークや一時退避して危機を避けなければなりません。
大切なのは常に「危険を予測し、文化や宗教を尊重する姿勢」を持つこと。現代の職場や地域に欠かせないリスク管理の心構えです。

