【記者の現場ノート】福田和子・時効21日前の逮捕劇。潜伏先のおでん屋で見た「人たらし」の正体
昭和・平成の犯罪史上、もっとも有名な逃亡劇といえば「福田和子・元受刑者」を置いて他にないでしょう。1997年7月、時効まで残り21日という土壇場での逮捕。
当時、福井県警を担当していた私は、一報を受けて現場となった福井駅裏のおでん屋へ急行しました。そこで目にしたのは、凶悪犯の素顔ではなく、地域の人々に深く愛されてしまった一人の女性の「偽りの日常」が崩壊する瞬間でした。
愛媛県で同僚のホステスを殺害し、約15年にわたって逃亡を続けた福田元受刑者。
逃亡開始直後に東京で目や鼻の整形手術を受け、顔を変えて「7つの顔を持つ女」と呼ばれた。20種類以上の偽名を使い分け、各地の飲食店で働きながら潜伏。
石川県金沢市では、老舗和菓子店の主人と内縁関係になり、後妻に収まろうとした。
福田元受刑者が福井で逮捕されたときの裏側をお伝えします。
福井で人気者だった福田容疑者
1997年7月、指名手配中だった福田容疑者(当時)は、時効の21日前に福井市で逮捕された。彼女は別人になりすまして福井市で暮らし、福井駅近くのおでん店に頻繁に客として訪れていた。
気さくな性格で場を盛り上げる常連客として人気を集めた。派手なブランド服を着てカウンターに立ち、男性客の相手やカラオケを一緒に歌ったりしていた。なじみの客のアイドル的な存在だった。
それだけに逮捕の報道に、常連客たちは「まさか」と口を揃えて驚いた。
逮捕のきっかけはテレビ番組
福井県警を担当していた私は、一報を受けて現場へ駆けつけました。福井駅裏の線路わきの場末という言葉がぴったりのに場所におでん店はありました。
店内はカウンターとわずかなテーブル席のみ。逮捕のきっかけは、店にいた男性客が、未解決事件を扱うテレビ番組を視聴中に「犯人とされる女性の声が、常連客(福田容疑者)にそっくりだ」と気付いたこと。
その男性は警察に通報し、店は福田容疑者が手にしていたビール瓶を提供した。
指紋が一致し、本人と特定されました。後日、福田容疑者が再び店を訪れた際、警察に逮捕されたのです。

逃亡生活の拠点と素顔
彼女の拠点は福井駅裏のビジネスホテル。
県警が家宅捜索に入った際、私たちも近くで取材。
部屋にはフェンディなどブランドの服が並び、華やかな生活ぶりがうかがえました。夜はおでん店で常連客に積極的に話しかけ、カラオケを披露。元ホステスらしくカウンター内でおしゃべりをして男性客の相手をし、場を盛り上げた。多くの人が彼女目当てに通っていました。
逮捕翌日には、特急列車で警察署に護送。取材陣にもみくちゃにされて転倒する姿が全国に放映されました。
常連客の反応と店の結末
逮捕後、意外な反応がありました。
「なんで○○ちゃん(福田容疑者)を警察に売ったんだ」と常連客たちは憤りました。彼女を慕っていた人々にとって、その不在は大きかった。
雨や雪、雷の多い独特の北陸の気候で、彼女の明るさは際立ったことでしょう。
常連客の寂しさは募り、批判の矛先は老夫婦が営むおでん店にも及びました。
福田容疑者を警察に突き出したことへの批判や中傷がさらに広まり、おでん店は閉店に追い込まれた。福田容疑者がどれほど“人たらし”だったのかを物語っています。
サスペンス劇場のような逃亡劇
振り返れば、彼女は生き延びるために愛媛の地元を離れて福井などで別人として暮らした。その存在は福井の人々の暮らしの一部に深く入り込みました。
福田元受刑者は、無期懲役が確定し、服役中の2005年に和歌山刑務所で体調を崩し、57歳で亡くなりました。
いまでもこの事件は「昭和・平成の事件簿」として語り継がれています。逃亡者が“人気者”になったという事実は、人間模様の不思議さを感じます。
人間の表と裏、見知らぬ場所での暮らし、別人と偽った人生、そこで親しくなった地元の人たち。偶然、正体がばれて時効直前の逮捕と別れが訪れたが、それがなかったら彼女は、どうなっていたでしょうか。
彼女は「福井の人気者」として、そのまま人生を終えていたのでしょうか。 人々の暮らしに溶け込み、去った後にこれほどの混乱と寂しさを残した彼女の「人たらし」の才能。それは、記者の目から見ても、あまりに危うく、そして悲しい人間模様の極致でした。サスペンスドラマの題材になるのもうなづけます。

