【文系独学の逆転劇】社会人の学び直しで「宇宙物理学の最先端」に到達する方法。京大基研(YITP)国際ワークショップ潜入記

fourier1

社会人の学び直しとして「宇宙物理学の最先端」を学びたいとき、私たちはどこへ向かえばいいのでしょうか。

社会人入学した大学には専門の教授や講座がなく、市民対象の科学カフェでは研究の入り口しか触れられず物足りない……。そんな知的渇望を抱く社会人に強くお勧めしたいのが、トップクラスの学者が主催する「国際ワークショップ」や「勉強会」です。これらはホームページ等でスケジュールが一般公開されており、実は部外者であっても参加可能です。

2026年5月末、私は文系出身の身でありながら、京都大学基礎物理学研究所(YITP)で開催された国際ワークショップに潜入しました。そこで体験した、まるで夢のような「最先端の学び」の熱量をお伝えします。

宇宙の始まりに最も近い「ホログラフィー原理」の最前線へ

今回のワークショップのテーマは、世界中の物理学者が最注目している「ホログラフィー原理(AdS/CFT対応)」。京都市のYITPで3日間の日程であり、私は仕事の都合で初日のみの参加となりました。

ホログラフィー原理は、私たちの住む3次元空間は、実は2次元の境界に記録された情報が立体的に見えているだけではないかという「空間の創発」を巡る仮説です。

この分野で世界を牽引し、時空が「量子もつれ」によって創発するという革新的な「笠ー高柳理論」を発表した高柳匡・京大教授が今回の主催者でした。

会場となった湯川記念館には、東大、京大、阪大をはじめ、米プリントン大、スウェーデンのストックホルム大、清華大、キングス・カレッジ・ロンドンなど、世界最高峰の研究機関から若手研究者や大学院生が集結。参加者200人のうち3分の2が外国人研究者という、圧倒的な熱気に包まれていました。

奇跡の15分:世界最高峰の物理学者・高柳教授の「個人講義」

私がこのワークショップで得た最大の果実は、憧れの高柳教授から直接、個人向け講義を受けられたことです。

休憩時間、思い切って実行委員の大学院生に「高柳教授の理論を学びたいので、お話を聞ける方を紹介してほしい」と直訴しました。すると、なんと院生は高柳教授本人を連れてきてくれたのです。

私は新聞社に勤め、サイエンスコミュニケーターを目指していること、そして教授の理論でどうしても分からない部分があることを告げました。

教授は多忙を極める身でありながら「この発表の後、少し時間があるので説明します」と快諾してくださったのです。

発表終了後、ロビーにいた私を見つけた教授は、ホール内の黒板の前へと誘ってくれました。

チョークを手に取った教授は、量子もつれがCFT(共形場理論)からAdS(反ドジッター時空)に広がっていく様子を幾何学的な図で黒板に描き、ワームホールや量子多体系との関わりを解説。

この理論が負の曲率の宇宙だけでなく、私たちが住む「正の曲率の宇宙」にも適応されつつあり、完成に近づいていることを丁寧に説明してくださいました。

わずか15分間でしたが、世界トップの学者による贅沢すぎる個人講義。テイラー・スウィフトと出会って一緒に歌ったかのような、激しい感動が全身を駆け巡りました。

私は気持ちが高ぶっていたため、板書の写真をスマホで撮るのを忘れてしまいました。話し終わると教授は、すぐに消してしまいました。

大変、もったいないことをしたと後悔しましたが、何とか思い出してノートに書き、ここに写真を掲載しました。

科学カフェや大学の「聴講生」では満たされなかった渇望

私がこの場所にたどり着くまでには、2年半に及ぶ孤独な闘いと挫折がありました。

最初に地元の科学館の学芸員に量子力学やホログラフィー原理を質問したときは誰も答えられず、「大学へ行きなさい」と言われました。

市民講座で著名な宇宙物理学者に質問したときは「まずは数学を学びなさい」と諭されて門前払い。

そこから一念発起し、数Ⅲはもちろん、応用数学、力学、電磁気学、解析力学、統計力学、そして量子力学までを、参考書・YouTube・生成AIを駆使して文字通り血の滲むような独学で習得しました。

その後、地元の国立大学理学部物理学科に聴講生として入学。しかしそこは「実験・観測」がメインで、理論物理学(ホログラフィー原理)を専門とする教授はほとんどおらず、研究室を訪ねても追い出される始末。学生相談所には「あなたが学びたいことは、この大学では難しい」と言い渡されました。

一般向けの「科学カフェ」にも出向きましたが、時間の半分は導入の雑談や著書の宣伝、初歩的な話で終わり、質問も1人1問。周囲の質問の本質がずれていく中、いつも不完全燃焼のまま帰路についていたのです。

ただ、署名な先生の話を間近で聞け、質問に答えてもらうことは貴重な体験になります。

独学の同志たちとの出会い、そして理論物理学者の優しさ

今回のワークショップでは、懇親会の席で名古屋大、立教大、阪大、東京科学大の大学院生たちと議論を交わすこともできました。

彼らの中にも「自分の大学院には学びたい講義がないから、独学でこのワークショップに来た」という猛者がおり、自分から主体的に学ぼうとする姿勢に深く勇気づけられました。

理論学者と実験・観測学者のアプローチの違いや、数学的矛盾のなさと実験証明の違いなど、高次元の議論ができたことは期待以上の成果でした。

かつて門前払いを経験した私にとって、部外者の文系人間を快く迎え、黒板の前で熱弁を振るってくれた高柳教授をはじめとする理論物理学者たちのオープンな姿勢は、これまでのイメージを大きく変えてくれました。

まとめ:諦めなければ、社会人の「真の学び場」は見つかる

宇宙物理学の深淵に触れたいと願い、追い込まれ続けた2年半。京大基研でのワークショップは、私がようやくたどり着いた「本物の聖地」でした。

今回の経験から、社会人の学び直しにおける教訓をまとめます。

  • 科学カフェや地方大学の聴講生には限界がある(観測・実験メインの壁)
  • 最先端に触れたければ、第一線の学者が集う「国際ワークショップ」を狙う
  • 基礎数学・物理を独学していれば、部外者であってもトップの学者は熱意に応えてくれる

「あなたが学びたいことは、この大学では難しい」と突き放した地方大の姿勢と、世界のトップである高柳教授が「この発表の後、少し時間があるので説明します」と快諾してくれた温かさ。違いを痛感しました。

大学のパンフレットや市民講座の枠組みに囚われる必要はありません。あきらめずに探せば、あなたの知的好奇心を100%満たしてくれる場所が必ず日本のどこかに存在します。

合わせて読みたい
市民向けサイエンスカフェで、宇宙物理学を深めることはできるか 「時空の創発」を追って京都へ
市民向けサイエンスカフェで、宇宙物理学を深めることはできるか 「時空の創発」を追って京都へ
合わせて読みたい
社会人学び直し 大学は「壁」だった。ノーベル賞学者輩出の大学の閉鎖性と学外の学びの場の可能性
社会人学び直し 大学は「壁」だった。ノーベル賞学者輩出の大学の閉鎖性と学外の学びの場の可能性
ABOUT ME
シュレディンガー
シュレディンガー
報道記者
主要マスコミに勤務。記者、デスクとして東京、大阪、地方での取材経験あり。最近はサイエンスコミュニケーター目指して宇宙物理や量子力学を学んでいる。
Recommend
こんな記事も読まれています!
記事URLをコピーしました