【元支局長が問う】福井県知事セクハラ1000通の衝撃。なぜ20年も「裸の王様」を許したのか?組織の病理と再生への道
福井県の杉本達治前知事(63)について、20年近くにわたり少なくとも4人の女性職員にセクハラに該当する約1000通のメールやラインを送り、体を触る行為が3件あったことが判明した。
2026年1月7日に公表された弁護士3人の県の特別調査委員による調査報告書で認定された。
県の特別調査委の調査報告書によると、身体的な被害は、飲食店で太ももや尻を触られたなどの内容で、「刑法上の不同意わいせつ罪に抵触する可能性も否定できない」と断じた。
県庁の問題点として内部通報体制の機能不全も指摘した。
私は、福井県嶺南地方の支局長として2021年から2年半勤務し、杉本氏の知事としての仕事ぶりを間近で見てきた。
手堅い印象で、原発政策や北陸新幹線小浜ルート着工では国や電力会社、JR各社に県の立場を理路整然と主張する頼もしいリーダーに映っていた。それだけに報告書の内容には驚かされた。
報告書には、杉本氏の表の顔とは違った側面が詳細に記されていた。
杉本氏は、権力者に物が言いにくいという福井の風土やおとなしい県民性を利用したのではないかとの疑念がぬぐえない。
問題が表面化したのは、被害者の泣き寝入りはしないという強い意志、メールやラインなどの証拠物、外部の弁護士による相談窓口の存在だった。
他の自治体や企業でも同様の問題は起きており、福井県のケースと同じ構造的問題を抱えている。今回の事例から組織での権力者からのセクハラやパワハラを防ぐ方法や職場づくりを考察した。
認定された「不同意わいせつ」の疑いと驚愕の1000通
杉本氏は、岐阜県中津川市出身。東京大法学部を卒業し、旧自治省(総務省)に入省。2004年に福井県総務部長に就任し、07年に内閣参事官に就任。
福井県副知事を経て19年に知事に初当選。23年の知事選で再選を果たした。
報告書によると、4人への確認できたメールやラインのメッセージは、総務省からの出向で県総務部長を務めた後、内閣参事官となった2007年から昨年まで20年近く送信されていた。
「エッチなことは好き?」「キスできたら安心できるかなぁ」などの性的表現や「一切内緒で、墓場まで持っていってね」など口止めする内容もあった。
被害者が拒否の姿勢を示しても執拗に飲食に誘ったり、暗に性的な関係を繰り返し求めたりした。
「頼もしいリーダー」が見せた表の顔と、執拗な性要求
被害に遭った女性職員の中には、親子ほど年齢が離れた杉本氏からの要求に恐怖を感じつつ、対応しないと「仕事がなくなってしまうのではないかとの恐怖感」に苦しんだとの証言もあった。
セクハラを受けた後に複数の上司に相談した職員もいたが、いずれもハラスメント対応の部署に報告しなかった。
「メッセージぐらいで大騒ぎする方がおかしい」などと被害を軽んじるような周囲の反応も被害者を苦しめた。
報告書は、セクハラが起きた要因として杉本氏の「自覚の欠如と私的なコミュニケーションツールの安易な使用」を挙げ、「圧倒的に優越的地位にいる加害者」と厳しく指弾した。
県庁内で管理職の問題意識も希薄と批判。県庁にはセクハラ被害を通報しにくい組織風土があると指摘した。

20年の沈黙を破った「3つの盾」:証拠・覚悟・外部窓口
20年近く続けられてきた杉本氏のセクハラ行為。
それを終わらせたのは被害者の「DVのように感じた」という外部相談窓口への訴えだった。これをきっかけに全庁の調査が始まった。
約1000通の膨大なメールやラインは、杉本氏に言い逃れをさせない確かな証拠として機能した。
外部の相談窓口の存在は、組織内でセクハラ問題を矮小化しようとする中で、もみ消されることを防いだ。
この3つが問題発覚に大きな役割を果たした。
杉本氏はメールやラインについては「被害を訴えた方々に深くおわび申し上げる」とコメントを発表している。
しかし、太ももやお尻を触ったとする行為については、特別委の調査に「身体に触れた記憶はなく、触っていない」などと否定している。
写真などの証拠物が残っていないことから言い逃れできると判断したのだろうか。
報告書では「信用できない」と結論付けている。

福井の風土と「昭和の残滓」が招いた組織の機能不全
民間シンクタンクの都道府県調査で2024年まで12年連続で「幸福度日本一」になった福井県。
私が記者と支局長の2回にわたり福井市と敦賀市に勤務した経験からは、幸福度日本一のイメージからは程遠かった。
昭和の文化が色濃く残り、パワハラ体質や男性優位なところが残っていた。
周りを気にして、パワハラやセクハラの被害は言いにくい雰囲気があり、女性の人権が尊重されているとは思えなかった。
杉本氏はそのことを熟知していたのかもしれない。他者への共感性のなさがセクハラ行為につながったのだろうか。
原発や北陸新幹線政策と同じように職員に対するセクハラ行為もコントロールできると思い込んでいたのかもしれない。
セクハラ行為は、2025年4月に公益通報の外部窓口の弁護士事務所を通じて問題が発覚した。県が全庁での内部調査を開始すると、杉本氏は報告書の詳細が公表される前の同年11月に辞表を表明した。
報告書の詳細が公表された26年1月8日以降、杉本氏は会見を開いて知事としての説明責任を果たしていない。県民への真摯な謝罪は置き去られたまま。
結び:権力者が「コントロール」できない時代の到来
杉本氏は、全国最多の原発を抱える福井県の知事として、原発政策、使用済み核燃料の県外搬送について国や電力会社に県の立場を是々非々で訴えてきた。
北陸新幹線小浜ルートの着工、農政、過疎化対策、医療問題にも力を注いだ。
各方面への影響を考慮し、失言はなく、計算し尽くされた振る舞いは見事というほかなかった。どうしたら県に利益をもたらされるかを心得ていた。
一方でユーモアや人間性がにじみ出る発言は、あまりなかった。
私はこれまでも、他の自治体で知事や町長がセクハラ行為で、被害者の訴えをあらゆる手を使って、もみ消そうとした事例を見てきた。
トップの圧倒的な優越がパワハラやセクハラを生みだす土壌になっていた。
会社でも同様の権力者が問題を起こす事例は多い。
硬直した組織のリーダーのもとでは、部下は思うような仕事はできない。通報制度があっても役立たなかったのは、有名メディア企業でも見てきた。
しかし、SNSが発達した時代、隠し続けることは難しい。
密室で行われたり、力で押さえつけようとしても、録画や録音があれば、ネット上で拡散され、特定されてしまう。
圧倒的優越な地位を利用して、セクハラやパワハラをする時代は、終わりを迎えつつある。
もし今、あなたが同じようにセクハラに悩んでいるなら、録音や録画、日記、周囲への相談記録を残してほしい。
福井県特別調査委の調査報告書は、県のホームページで全文公開しています。



