「会いにくい人」の心を開く。記者が教える、拒絶の壁を溶かす「共感と誠実」の対話術

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【はじめに】拒絶の先にある「真実」を聞き出すために

記者として活動していた頃、私は「会うことが極めて困難な人々」に何度も向き合ってきました。事件・事故の被害者やその遺族、時には世間から厳しい目を向けられている加害者、あるいは疑惑の渦中にいる政治家たち。

彼らの多くは「これ以上騒がれたくない」という強い警戒心を持っており、簡単には門を開いてくれません。しかし、取材意図を丁寧に伝え、真摯に理解を求めることで、多くの人が最終的には心を開いてくれました。何より大切なのは、相手のことを理解しようとする姿勢です。

今回は、私が現場で学んだ「相手の壁を取り払う対話の極意」をお伝えします。

【事例1】いじめの加害者が語った、知られざる「心の叫び」

私が20代の頃、中学2年生同士のいじめ問題を取材しました。民事裁判にまで発展したその事件で、私は「なぜ加害者は、いじめに走ったのか」を解明しなければ、問題の本質は見えないと考えました。

加害者の生徒A君の自宅へ何度も足を運び、手紙を出し、取材の目的を粘り強く伝えました。ようやく会えたA君は、母子家庭で育ち、母がパートから帰ってくるまで家ではゲームに没頭する孤独な少年でした。いじめ問題が明るみになってからは、学校に行けなくなりました。

取材を進めると、驚くべき事実が見えてきました。A君自身も小学生時代、上級生からタバスコを目に入れられたりと凄惨ないじめを経験し、それを学校側に黙殺されていたのです。大人たちは、だれも助けてくれませんでした。

中学校に上がると、目立つ格好をしていたことから先生に目を付けられ、一方的に叱られた。学校に来るなと言われた。小学校の時に自分を助けてくれなかった教師が、今度は自分を攻撃するのかと怒りがこみあげた。

母不在の家庭で、孤独、教師への不信感。その怒りの矛先が、友人と2人で同級生への暴行へと向かっていました。

家には弟と2人。気晴らしはゲームと飼い猫だけ。

私は彼と日常会話を重ね、ゲームや好きなアニメについて教えてもらった。一人の人間として向き合った。そこには一緒にいじめをした友人も来た。

その結果、5回にわたる連載記事として、加害者側の背景や更生支援の重要性を世に問うことができました。思った以上の反響があり、中学生からたくさんの投書をいただいた。

大人になった彼から、元気にやっていると連絡をもらった時の安堵感は今でも忘れられません。

【事例2】虐待死事件の遺族が託してくれた、一冊の日記

わが子を虐待死させてしまった夫婦の親族を取材したこともあります。私は「なぜ、これほど悲惨な事件が起きたのか」という背景を明らかにしたいとの思いを綴り、手紙を添えて自宅へうかがいました。

親族の方は、私の真剣な態度を見て、妻が残した詳細な日記を見せてくれました。

そこに綴られていたのは、貧困と情報の欠如という「負のスパイラル」に陥り、社会から孤立した家庭の姿でした。ダークな知人しか周りにおらず、助けを求める術を知らないまま追い詰められていく現実。日記を通じて、悲劇を生む社会の構造を浮き彫りにすることができました。

【事例3】熱意はプロデューサーの心も動かす

一方で、前向きな取材でもアプローチは同じです。

フジテレビドラマの人気プロデューサーに取材を申し込んだ際は、作品への想いと自分がどうしても聞きたいことを熱く書き記しました。その結果、すぐに快諾をいただくことができました。

【まとめ】「会いにくい人」の心を開く 自分の生い立ちこそが、最大の武器

私自身、5歳で父を亡くし、地方の母子家庭で育ちました。学歴に対する偏見や悔しさを経験したからこそ、虐げられた人や社会の端に追いやられた人の痛みを、理屈ではなく実感として理解できたのだと思います。

「会いにくい人」の心を開くために必要なのは、以下の3点です。

  1. 目的と必然性を、自分の言葉(手紙や対面)で明確に伝えること
  2. 相手の背景を理解しようと努め、真摯に寄り添うこと
  3. 自分の弱みや背景も隠さず、一人の人間として向き合うこと

「自分のことを理解してほしい」「本当の話を聞いてほしい」と思っている人は、案外少なくありません。皆さんも、どうしても会いたい人、伝えたい想いがあるのなら、諦めずにトライしてみてください。

誠実な一歩が、きっと壁を溶かしてくれるはずです。

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シュレディンガー
報道記者
主要マスコミに勤務。記者、デスクとして東京、大阪、地方での取材経験あり。最近はサイエンスコミュニケーター目指して宇宙物理や量子力学を学んでいる。
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