新聞記者は何を食べて生き抜いてきたのか? 現場のカップ麺から霞が関・農水省の穴場食堂、緊張の会食まで
火災現場で取材を続けていた午後3時。
朝から何も食べていないことに気づいた。
コンビニまで徒歩5分。しかし現場を離れれば重要な証言を逃すかもしれない――。
新聞記者とにって、食事をどう確保するかはとても重要な問題です。若いときは事件事故に追われながら食べ物を早く手に入れ、いかに早く食べるかを考えていた。
デスクで支局や本社にいるときも電話が鳴り、ファックスが次々と届く中で、食べる時間を確保するのは難しかった。取材先での会食、仕事後の飲み会、他社との懇親会は相手がいるため、ずっと気を張っていました。
働くうえで、食事がいかに大切か、職場の人間関係においてどんな役割を果たしてきたのか。新聞社勤務30年以上の私が時期や場面ごとに説明します。
常に事件現場へ、まともに食べられない日々
私は20代の駆け出しのころ、火事や事故、事件現場やお祭り、高校野球地方大会など取材で外を動き回っていました。
上司や先輩から次々と指示されるので、ゆっくりと昼飯や夕食を食べられない。
おにぎりや弁当、コンビニのサンドイッチ、カップ麺などで済ますことが多い。
いったん事件現場に行くと、食べ物を買いに行く時間もない。それでも現場を離れることができず、食べないままになることもありました。
若いときはおなかがすくので、モチベーションも下がりました。

電話と問い合わせに追われ“ながら食い”が日常
支局や本社のデスクになると、記事の問い合わせだけでなく、電話やファクスがしきりにかかってきます。
見出しを担当する整理記者から問い合わせも殺到します。校閲部からは間違いを指摘され、記者に確認。広告や事業から社ものの記事掲載依頼があったり、民間のPR会社から取材の売り込みがあったり、あわただしい。
編集会議にも出なければいけない。食事なんかとっている時間はない。弁当やパンを持ち込んで、記事を直しながら食べるしかありませんでした。
仕事が落ち着いた午後11時ぐらいに社内の食堂に行こうとすると、営業終了に。結局、深夜の自宅でドカ食いをしてしまうという悪循環に陥った。健康診断では、悪い数値が並びました。
飲み会 気を抜けない“緊張の食事”
取材先との懇親会では、レストランや料理店などで開かれます。もちろん、全参加者の会費制です。
取材先は地方行政の長や幹部、経済人、文化人など。相手の心の内を探ったり、接近したり、言葉の裏の意味を読み解いたり。お酒も入るので、うっかり本音を言わないかを集中して聞いています。楽しんで食べる雰囲気ではない。
私たちもまちがいがないように緊張しています。セクハラや暴言で、場をしらけさせた記者たちをいっぱい見てきました。
評判の料理が出ることがありますが、味なんかちっとも覚えていなかった。
霞が関・国会の「穴場食堂」事情
霞が関では、幻の食材に出合うこともありました。
私が厚生労働省を担当していた時、副大臣室での懇親会に担当記者たちが呼ばれました。九州出身の副大臣は、地元から幻の焼酎を仕入れていました。魔王、森伊蔵などの手に入らない逸品ばかり。支援者を通して用意したそうです。
ちなみに国の省庁が入るビルの最上階などは、格安レストランが入っています。だれでも市場の6割ぐらいの値段でハンバーグ定食やワイン、ビールなどを頼むことができました。
中でも農林水産省の食堂は、人気がありました。全国のおいしい農産物や海産物、日本酒が集まってくるからです。しかも、安い値段で食べられる。私は、たまに利用していました。
国会議事堂にもお得で食べられる高級フードコートがあります。
議員や秘書、職員は、いつも当たり前のように使っていました。上京した地方の支援者や事務所の人たちもいました。
私も国会取材の合間にお寿司屋やステーキ、洋食などを食べに行っていました。
地方勤務で特産品に出合う
記者の多くは、地方に赴任します。
その土地土地で、特産品があります。北陸なら富山・氷見の寒ブリ、金沢の加賀料理、加賀野菜、福井の越前そばにソースカツ丼、越前ガニ、東海ならウナギのひつまぶし、松阪牛、伊賀牛、エビフライ、栗きんとん、北関東ならあんこう鍋、メロン、生ガキ、ギョーザ、梅酒など。
赴任地ごとに特産品を取材し、自分でも食べました。その土地の雰囲気や歴史、人々の思いが受け継がれてきた特別な味は格別でした。
様々な各地の味を知ってこそ、記事に深みが出ると思います。
まとめ 食べることは“人間関係と取材”の一部
食べ物は、地域を知る入り口になるだけでなく、そこで暮らす人たちとの関係を築いていくのにも大きな役割を果たします。

新聞記者は、食べることは取材活動の一環と言えるかもしれません。
ただ、記者の食事は不規則で、バランスが悪いことが多い。味わってうゆっくり食べることが少ない。
このため太ったり、健康診断の数値が悪くなったりしがち。健康を害する人もいます。コロナなどを機に会食の機会は減りましたが、記者の食事の不規則で偏りがちな生活は、あまり変わっていません。
記者やデスクに求められているのは、規則的でバランスよい食事を心がけ、食べ過ぎないよう自分を律する強さです。アルコールの取りすぎも要注意です。
それでも、記者人生を振り返ると、食事は単なる栄養補給ではなかった。
情報を得る場であり、人間関係を築く場であり、その土地を理解する入口だった。
記者の仕事がどんなに変わっても食が大切なことは同じ。



