児童殺傷事件の裁判を取材して感じた事件報道の使命と課題

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児童殺傷事件の裁判から学んだこと ― 記者として変わった「事件報道の視点」

関西地方で起きた〇〇小学校児童殺傷事件の刑事裁判は、私の事件報道への考え方を大きく変えました。被害者や遺族のことを思えば、決して許されない犯罪であることは間違いありません。しかし、なぜ加害者はこのような事件を起こしたのか。その背景を探ることこそ、再び同じ悲劇を繰り返さないために必要だと痛感したのです。


裁判で明らかになった被告の生い立ちと心理

被告(当時)の弁護士は、事件の背景を解明するために被告の生い立ちを徹底的に調べました。
彼はこだわりが強く、一度執着すると抜け出せない性格でした。小さなトラブルを繰り返すうちに社会から孤立し、孤独を深めていきました。

さらに救いを求めて臨床心理士や精神科医を訪ね歩いたものの、自分を理解してくれる専門家には出会えませんでした。絶望のあまり精神科病棟から飛び降り、自ら大けがを負ったこともありました。その後遺症が彼の心身に大きな影響を与えたのです。

こうした積み重ねが、やがて社会への逆恨みへと変化し、うまくいっている人々を不幸に陥れたいという歪んだ思考に至ったことが裁判で浮き彫りになりました。


犯罪心理を明らかにする意義

証拠調べでは、診察した精神科医や臨床心理士も証言台に立ちましたが、彼らの証言はどこか「人ごと」のように響きました。
その中で弁護士は「なぜ彼は犯罪に至ったのか」を解明しようと強い使命感を持っていました。MRI検査では被告の脳に器質的な特徴があることも判明し、本人も納得した様子だったといいます。

もちろん、どのような事情があろうとも犯罪は正当化できません。しかし、犯罪者の心理を明らかにすることは、同じような事件を未然に防ぐ社会的な意味があると私は感じました。


記者としての気づき ― モンスターをつくらないために

この裁判を取材して以来、私は「事件をただ報じるだけでなく、その裏にある人間像を掘り下げる」ことを意識するようになりました。
加害者を単なるモンスターとして描くのではなく、どうしてそこに至ったのかを伝えることが、社会の防止策につながるのです。

事件報道の本当の役割は、再犯防止と社会の改善に貢献すること。
私たちが同じ悲劇を繰り返さないためには、被害者や遺族への思いを忘れず、同時に「人を追い込まない社会」を目指す必要があると強く感じています。彼を理解しようとする人が現れていたら違った展開になっていたかもしれません。

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シュレディンガー
シュレディンガー
報道記者
マスコミに勤務。記者として東京、大阪での取材経験あり。最近はサイエンスコミュニケーター目指して宇宙物理や量子力学を学んでいる。
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