「おもてなし」の落とし穴?常連優遇で新規客を失う地方商店街の実話

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新幹線開業で盛り上がる地方都市

海に面した地方都市で勤務していたころのことです。新幹線駅の開業を控え、街はまさに歓迎ムード。 商店街や観光協会は「おもてなし」を合言葉に、観光客やビジネス客を迎えるための研修会を繰り返していました。 人口減や産業衰退で元気を失っていた商店街にとって、新幹線は起死回生の大きなチャンスでした。

「売り切れ」と言われた刺身定食

開業直前の昼時、私は商店街の老舗料理店に入りました。 ホワイトボードに「刺身定食」と大きく書かれていたので迷わず注文。 ところが、おかみからは「もう終わってしまったんです」と告げられ、仕方なくとんかつ定食を頼むことに。

常連には特別対応

その直後、なじみの若い男性客2人が店に来ました。 おかみは笑顔で「今日いい魚が入ったよ、刺身定食なんかどう?」と勧めます。 さっき「売り切れ」と言われた私の隣で、彼らには鮮やかな刺身の盛り合わせが運ばれてきました。 目の前で繰り広げられる常連優遇に、思わずこけそうになったのを覚えています。

常連を大切にする店の心理

おかみにとって私は一度きりの観光客に見えたのかもしれません。 常連を優先する方が売上の安定につながると考えるのも理解できます。 しかし、果たしてそれは商売として正しい選択だったのでしょうか?

商売の基本は「新規客をリピーターに」

売上を伸ばすためには、常連だけでなく新規客をどうリピートさせるかが重要です。 転勤族や観光客が「この店はいい」と感じれば、同僚や知人を連れて再訪することもあります。 新幹線開業後に訪れる県外客も同じ。新規客を軽視すれば、その波及効果を逃してしまいます。

「おもてなし」とは誰のためか

地方都市が発展するには、常連だけでなく「一度きりかもしれない客」にも誠意を尽くすことが必要です。 どの客にも同じ対応をすることこそ、真の「おもてなし」ではないでしょうか。

常連に寄りかかる経営ではなく、新しい客を街のファンに変えていく――それが地域の未来をつくるのだと思います。ただし、新規客獲得のあまり、かけがえのない常連客を残念な気持ちにさせるのはよくありません。大切なのはバランスです。

この地域には1940年代に「命のビザ」を携えたユダヤ人が上陸した日本で唯一の港があります。上陸した難民を市民は、温かく手を差し伸べ、迎い入れました。彼らが所有していた時計や貴金属は駅前の時計店で換金した記録も残っています。

この話は、市民に代々語り継がれています。多くの市民には、おもてなしの心は今も息づいています。

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シュレディンガー
シュレディンガー
報道記者
マスコミに勤務。記者として東京、大阪での取材経験あり。最近はサイエンスコミュニケーター目指して宇宙物理や量子力学を学んでいる。
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