市民向けサイエンスカフェで、宇宙物理学を深めることはできるか 「時空の創発」を追って京都へ

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市民向けのサイエンスカフェで、宇宙物理学の深い理解を得ることはできるのか。その答えは「活用次第」です。

サイエンスカフェの最大の利点は、地方大学の閉鎖的な教室では決して出会えないような一流の学者に、ピンポイントでアプローチできることです。

私が聴講生として通った地方N大理学部では「出会えない」と突き放された最新理論も、ここでは手の届く場所にあります。

一方で、一般向けゆえの制限もあります。

30年以上の記者経験を持ち、現在はサイエンスコミュニケーターを目指す筆者の視点から、その実像をレポートします。

地方大理学部の外へ。「知のアイドル」橋本幸司教授に会いに行く

4月18日、私は京都大学理学部のセミナーハウスでの科学カフェ京都主催の講演会に訪れました。

テーマは「宇宙を支配する数式、超ひも理論とホログラフィー原理」。講師は、今最も注目される理論物理学者の一人、京大院理学研究科の橋本幸士教授です。

橋本教授は、映画『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』の物理監修、さらに映画『オッペンハイマー』の字幕監修も務めるなど、多方面で活躍する「知のスター」です。私が聞きたかったのは、3次元の世界は2次元の情報の投影であるとする「ホログラフィー原理」の真実でした。

3次元世界はホログラフィーか? 現場でぶつけた「検証可能性」への問い

会場では、難解な量子重力理論のエッセンスが、イラストを使って平易に解説されました。私は質問コーナーで、かつてN大の教授陣から「理論は妄想に等しい」と一蹴された記憶を胸に、あえて核心を問いました。「ホログラフィー原理は、実験や観測で検証できるのか」と。

橋本教授の答えは、驚くほど前向きで具体的でした。 「計算結果と実験データが一致し始めている。大型加速器でのグルーオンの状態からも、その存在が予見されている」 さらに、宇宙の膨張についてもホログラフィー原理で検証できる日が来るだろう、という予測まで語ってくれたのです。「仮説に過ぎない」と思い込んでいた私にとって、それは霧が晴れるような瞬間でした。

科学カフェ京都の熱気。湯川秀樹博士の面影が残る「聖地」での対話

会場となった「科学カフェ京都」は、2004年から続く歴史ある学びの場です。今回の開催で200回目。会場のセミナーハウスは、日本人初のノーベル賞受賞者・湯川秀樹教授が研究に打ち込んだ場所のすぐ近くにあります。会場は300人ほどの愛好者で満席になっていました。

かつて、この塀のすぐ隣に下宿していた学生時代の私。当時はそこが農学部と思い込み、理学部の聖地であることすら気づいていませんでしたが、数十年を経て、再びこの「知の源流」に立ち寄ることになった縁に、胸が熱くなりました。

サイエンスカフェの「光と影」。専門家から「本質」を引き出す極意

一方で、市民向け講座ゆえの限界も感じました。 第一線の科学者がレベルを下げて話すため、どうしても雑談や著書の宣伝、組織の歩みなどの話に時間が割かれます。今回も、相対性理論やホログラフィー原理の本題に触れたのは実質1時間程度でした。

それでも、質問次第で「本質」を掴むことは可能です。私は最後、別の出席者が尋ねた「量子もつれ」についても注視していました。

橋本教授は時間の制約を惜しみつつも、ひもの動きが次元を超えて見えるイラストを示し、「これが2次元と3次元の対応だ」と、私が最も知りたかった「量子もつれによる宇宙の創発」への重要なヒントを残してくれました。

結論。地方大学の壁を越え、自ら「学びの場」を勝ち取る勇気

サイエンスカフェは、地方大学の理学部という限られた枠内では決して学べない内容に触れるための、貴重な「越境の場」です。

登壇する学者は、必ずしも親切な人ばかりではありません。

時には専門的な質問を疎ましがる人もいるでしょう。しかし、めったに会えない著名な科学者と直接対話し、疑問をぶつける経験は、孤独な学びを続ける上での大きなモチベーションになります。

N大理学部で「ここには教えられる人はほとんどいない」と言われたあの日。

でも、自ら動けば、道は開ける。N大理学部の壁の外には、想像以上に豊かな知の世界が広がっていました。

ちなみにノーベル物理学賞のN大理学部出身の2人は、いずれも京大院での研究成果が受賞につながりました。

■ まとめ:知の「壁」を越えて見えたもの

  • 「会いに行く」価値は想像以上に大きい  地方大学の閉鎖的な環境ではたどり着けなかった最新理論も、第一線の研究者の前では「検証可能な現実」として語られていた。一流の知性に直接触れることは、既存の常識を打ち破る最短ルートになる。
  • 「アイドルに会いに行く」感覚でいい  サイエンスカフェは、難解な学問への入り口を広げてくれる。憧れの教授から得られる一言のヒントや熱量は、独学で数冊の本を読み込むよりも、はるかに強く学びのモチベーションを加速させる。
  • 「問い」が本質を引き出す  一般向けの講座は内容が浅くなりがちだが、勇気を持って核心を突く質問を投げれば、学者は真摯に応えてくれる。受け身で終わらせず、自分の知りたいことを「ぶつける」姿勢が、学びの質を決定づける。
  • 場所を変えれば、景色は変わる  大学という「古い組織」に固執し、向学心を削り取られる必要はない。AIの助言や自らの直感に従って「越境」した先にこそ、求める答えと、志を同じくする仲間が集うコミュニティが存在する。
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シュレディンガー
シュレディンガー
報道記者
主要マスコミに勤務。記者、デスクとして東京、大阪、地方での取材経験あり。最近はサイエンスコミュニケーター目指して宇宙物理や量子力学を学んでいる。
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