ローカル線を歩く 伊賀線と人々をつなぐ物語 1伊賀上野駅— 忍者列車と駅に息づく100年以上の歴史

fourier1

伊賀鉄道・伊賀線は、三重県伊賀市の西大手から伊賀神戸を結ぶ、全長16.6キロのローカル線。100年以上の歴史を持つこの路線には、駅ごとにまちの物語と人々の暮らしが刻まれています。

このシリーズでは、各駅を一つひとつ訪ね、駅舎の姿や地元の人々の記憶、地域に息づく文化や風景を記録しています。


観光ガイドとは少し違う、「伊賀の今」を歩いて見つけた記者目線の旅をご紹介します。

忍者と芭蕉のまち・伊賀を走る鉄道

忍者や松尾芭蕉の生誕地として知られる三重県伊賀市。家康の伊賀越えなど、歴史と文化が交錯するこの地には、100年以上の歴史を持つ伊賀鉄道・伊賀線があります。
全線16.6キロ、14の駅が地域に深く溶け込み、それぞれが個性的な「顔」を持っています。
今回は、その発着点「伊賀上野駅」周辺の人々と風景を訪ねました。

伊賀上野駅 — まちの玄関口から広がる物語

伊賀上野駅はJR関西線との接続駅。大阪市北部や京都市方面への利用も多く、伊賀の玄関口として長く親しまれています。
駅を出るとすぐに松尾芭蕉の句碑「月ぞしるへ こなたへ入せ 旅の宿」(月宿塚)が迎えてくれます。

駅前のロータリー向かいにあるのが、レンガ調の雑貨店「ポルトカワバタ」。アメリカンキャラクターの人形やアクセサリー、駄菓子などが並び、どこか懐かしい空気が漂います。

店主の川端巌雄さん(当時83歳)は笑いながらこう話します。
「昔は旅館や飲食店が集まって、駅前はにぎやかだった。今は静かだけど、もう一度活気を取り戻したいね」

子どもたちであふれていた頃の思い出を胸に、川端さんは今日も店を開け続けています。

老舗の味「森本芭蕉堂」 — 夢のお告げから生まれた名物

駅前を南に歩くと見える「伊賀名物かたやき 森本芭蕉堂」。100年以上続く老舗です。
次期代表の加藤拓真さん(当時32歳)は、人気商品の「あん入りかたやき」を勧めてくれました。

このお菓子は、現代表・森本昭三さん(当時88歳)が34年前、夢に現れた不動明王から「かたやきにあんを入れてみよ」と告げられたことがきっかけで誕生したそうです。
発売当初から人気を集め、今では伊賀を代表する味の一つに。加藤さんは会社員を辞めて家業を継ぎ、「伊賀鉄道とのコラボ商品も作ってみたい」と話します。

忍者列車の魅力 — 見ても乗っても楽しいローカル線

各駅について近鉄時代から伊賀線で約30年勤務している伊賀鉄道総務企画課の中村光宏さんに話を聞き、駅周辺を歩いた。

伊賀市の公式観光サイトによると、2009年12月に登場した「忍者列車」は青・ピンク・緑の3色。青い車両には漫画家・松本零士さんの直筆サインも入っています。


車内にも趣向が凝らされており、忍者や手裏剣が散りばめられた「手裏剣柄のカーテン」や「忍者が見え隠れする扉」、「手裏剣柄の車内灯」などが日々、乗客の目を楽しませています。

車内には手裏剣柄のカーテンや扉、忍者が見え隠れする装飾など、遊び心が満載です。緑の列車は「木育トレイン」として、壁面や吊り手に三重県産の木材を使用。乗りながら木のぬくもりを感じられる、全国でも珍しいデザインです。

まとめ — 鉄道がつなぐ地域の温もり

伊賀線は、ただの交通手段ではなく、まちの記憶をつなぐ“動く資料館”のような存在です。駅舎を守り、文化を受け継ぐ人たちの声を残すことが、このシリーズの目的でもあります。次の旅でも、また伊賀線に乗って、新しい出会いと風景を探しに行きます。

合わせて読みたい
古関裕而に学んだ地方の作曲家──敦賀に眠るもう一つの“エール物語”山崎正清さん
古関裕而に学んだ地方の作曲家──敦賀に眠るもう一つの“エール物語”山崎正清さん
ABOUT ME
シュレディンガー
シュレディンガー
報道記者
マスコミに勤務。記者として東京、大阪での取材経験あり。最近はサイエンスコミュニケーター目指して宇宙物理や量子力学を学んでいる。
記事URLをコピーしました